原告準備書面 第1

平成29年(行ウ)第39

原告 阿部洋二 外13

被告 柳泉園組合管理者 並木克巳

 

準備書面(1)

 

平成29629

 

東京地方裁判所民事第36部 御中

 

原告ら訴訟代理人弁護士 小沢一仁

 

第1 原告らの主張の補足

 1 柳泉園クリーンポート長期包括運営管理事業に係る平成29428日付委託契約(以下「本件契約」という。)の締結が違法・不当なものであること

 (1)判断基準

    地方公共団体の判断に、裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり、契約を無効としなければ地方自治法214項、地方財政法41項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるという場合には、当該契約は私法上無効になる(最二小判平成20118日・判タ1261145頁)。無効な契約の締結は、当然、違法・不当なものである。

    また、当該契約が私法上無効ではないものの、これが違法に締結されたものであって、地方公共団体がその取消権又は解除権を有しているときや、当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し、かつ、客観的にみて、当該地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるときにも、当該地方公共団体の契約締結権者は、これらの事情を考慮することなく、漫然と違法な契約に基づく義務の履行として当該契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり、契約締結権者がその義務に違反して当該契約を締結すれば,その締結は違法なものになるというべきである(前掲最高裁判決)。

 (2)本件契約が無効・違法であること

  ア 本件契約には財源の裏付けがないこと

     訴外柳泉園管理組合(以下「訴外組合」という。)は一部事務組合であり、構成市は西東京市、東久留米市、清瀬市の三市である(以下「構成三市」という。)。訴外組合には、独自の財源はなく、歳入の大半は構成三市の分担金により成り立っている。

       本件契約期間は15年と、長期にわたるものである(甲1:柳泉園クリーンポート長期包括運営管理事業に係る平成29428日付委託契約書。以下「本件契約書」といい、契約のみを指すときは「本件契約」という。)。そのため、訴外組合においては、平成288月に行われた第3回定例会において、本件契約に係る事業費の限度額及び事業期間を債務負担行為として補正予算に計上し、可決された。

     しかしながら、「債務負担行為」と言いながら、本契約にあたっての歳入財源は明示されず、構成三市における委託費の負担割合等は何も示されていない。そのため、構成三市においては本件契約にあたっての債務負担行為について、何ら議会で予算決議等されていない。

     以上によれば、訴外組合の債務負担行為は、財源の裏付けのない、実体を伴わないものである。

したがって、本件契約は、地方自治法第214条に違反する。

   イ 本件契約が構成三市の関与なく締結されたものであること

     訴外組合の管理者は東久留米市長、副管理者(2名)は西東京市長及び清瀬市長である。したがって、訴外組合には構成三市の市長は、形式上は、関与している。しかしながら、二元代表制の原則の下、同じく市民の代表であり、かつ、合議体のため、広く市民の意見が反映され、議論により慎重に意思形成を行う市議会の関与がない。地方自治法でも予算や決算、契約案件は、議会の同意を必要とする。(地方自治法第96条)

     上記ア、イで述べたとおり、本件契約は構成三市の利害関係に強くかかわるものである。そのため、契約金の負担割合を含め、事前に構成三市(特に市議会)と十分な合意形成をすべきであった。しかし、訴外組合はこれを行わず、独断で本件契約の締結に及んだものである。

     なお、この点について訴外組合は、平成281228日付「住民監査請求に基づく監査結果について(通知)」(甲2:「住民監査請求に基づく監査結果について(通知)」と題する書面。以下、「監査結果」という。)では、「組合議会に関する議案や報告事項は、柳泉園組合と構成3市で構成する【事務連絡協議会】で、検討、協議し、構成3市長による【管理者会議】において審議することがそれぞれ規定されている」「管理者会議において審議された組合議会への報告事項や議案については、組合の議会開催前には、構成3市へ通知(配布)し、組合議会で議決された結果についても構成3市に通知されている」とする(甲29頁)。

     しかし、訴外組合から、本件契約にあたって構成市にその方針の同意や財政上の負担を求める通知、提案は行われていない。会議の出席者への資料の配布を「通知」と言い換えているに過ぎない。したがって構成三市ではこの件でどのように債務負担するかなど一切市議会への提案・議論もない。

また本件契約は、単年度会計が基本である自治体にあって、15年の長きにわたる長期契約であり、地方自治法では、長期継続契約についての規定が地方自治法第234条の3で定められ、地方自治法施行令第144条でも細目が定められているが、その点についても、違背している。

   ウ 債務負担行為を予算計上する際して構成三市の長に対する通知を怠ったこと

     地方自治法287条の4及び同条の委任を受けた同法施行令211条の22号によれば、訴外組合は本件契約に係る債務負担行為を予算計上する際に、議決を求める内容及び決議の結果を構成三市の長に通知することが必要であるが、本件ではこれがされていない。

  

   エ 入札方法が公正を欠くこと

     本件では、一般競争入札ではなく、総合評価一般競争入札(地方自治法2343項但書、同法施行令167条の1021項)いわゆるプロポーザル方式により事業者を選定することとされている。

     しかし、一般論として係る入札方法では恣意的な判断により事業者が選定されるおそれがあり、一般競争入札と比較して不公正な入札方法となるおそれがある。

     訴外組合は、監査結果(甲210頁において、「本事業は、長期にわたる運営事業も含めた契約によることから、事業の入札・契約手続きについて、入札価格だけでの競争ではなく、地方自治法施行令(167条の12)に規定されている、入札価格に加え技術や様々な工夫も含めた技術力の優劣も評価する【総合評価落札方式】で契約者を選定することとしており」「落札者決定基準などを定めている」「学識経験者を含めた審査委員会を設け、落札者決定基準などを定めている」などと説明する。

     しかし、そもそも総合評価一般競争入札として理由についても抽象的であるし、実際に契約した事業者(住友重機械エンバイロメント株式会社)が落札者基準になぜ適するのか説明がない。また、学識経験者が誰であるか、いかなる理由で当該学識経験者を選定したのかも説明がない。

     以上によれば、本件契約の締結は、地方自治法地方自治法2343項但書、同法施行令167条の1021項、同第3項、同第4項に違反するものである。

   オ 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)に違反すること

     構成三市、および訴外組合は、廃棄物処理法、61項に基づき、それぞれが一般廃棄物処理計画を定めている。

     また同法6条の2では、当該市町村は、それぞれが定めた一般廃棄物処理計画に基づき、当該廃棄物の処理事業を行うことと定められている。

     ところが、構成三市及び訴外組合の計画は、それぞれ計画立案した年度から10年を超えていない。

     したがって廃棄物処理法の基本的な点での逸脱がある。

     さらに同条3項では、「市町村は、その一般廃棄物処理計画を定めるに当たつては、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関し関係を有する他の市町村の一般廃棄物処理計画と調和を保つよう努めなければならない。」旨定められており、構成三市のごみ処理を担う訴外組合においては、当然のことながら、構成三市の一般廃棄物処理計画と矛盾しない一般廃棄物処理計画を定める必要がある。

     しかし、訴外組合のホームページ上では、訴外組合の一般廃棄物処理計画の内容が確認できない。このような実情によれば、訴外組合の一般廃棄物処理計画の内容が構成三市のそれと矛盾するものである(調和を保っていない。)ことが明らかである。

     したがって、訴外組合の一般廃棄物処理計画は、廃棄物処理法61項及び3項、そして6条の2に違反するものである。そのため、同計画に従いごみ処理を行うことを委託する本件契約も、同条に違反するものである。

   キ 本件契約の締結が無効・違法であること

   (ア)裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があったこと

      上記アからカによれば、本件契約の締結は、財源の確保や不測の損害の発生の可能性、同損害の発生を回避するための方策等、考慮すべきことを考慮しないものであり、契約締結の前提となる入札方式の選択の理由も不合理なものである。

      加えて、地方自治法地方自治法2343項但書、同法施行令167条の1021項、同第3項、同第4項、廃棄物処理法63項に違反するものである。

      よって、本契約の締結に係る訴外組合の判断には、裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があった。

  (イ)本件契約を無効としなければ地方自治法214項、地方財政法41項の趣旨を没却する結果となること

   ⅰ 地方自治法214項について

     地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならないところ(地方自治法214項)、本件の場合は「住民」とは構成三市の住民を指すと解すべきである。

     そして、上記アからカで述べたとおり、本件契約の締結は、構成三市の負担割合等が全く決まっていないまま進められたものであり、また、仮に訴外組合が事業者に対する損害賠償債務を負ったときは、実質的には構成三市の住民にその負担が及ぶものである。加えて、本契約上の業務を事業者が行うにあたり、構成三市の一般廃棄物処理計画と矛盾するごみ処理が行われる可能性がある。

     したがって、本契約の締結は、構成三市の住民の福祉の増進に資さない。

     また、一般競争入札による場合よりも高額の委託費が支出され、今後の構成三市の方針によっては、訴外組合が事業者に対する損害賠償債務を負うことになる本契約は、「最少の経費で最大の効果を挙げる」ものとは到底言えない。

    よって、本件契約の締結は、地方自治法214項の趣旨に反するものである。

   ⅱ 地方財政法41項について

     地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならないとされるところ(地方財政法41項)、構成三市の負担割合を決めずに先行して委託費の支出を行う本件契約は、構成三市が同項に違反する可能性を含むものである。

     また、例えば構成三市のうちの一つの市が訴外組合から脱退したような場合には、他の構成市では委託業務は変わらないのに、負担金額の増額を余儀なくされることになる。加えて、訴外組合が事業者に対する損害賠償債務を負うなどした場合は、構成三市には直接の原因がないのに、実質的な負担が構成三市に及ぶことになる。

     以上によれば、本件契約の締結は、地方財政法41項の趣旨にも反するものである。

 (ウ)小括

    以上のとおり、本件契約の締結に係る訴外組合の判断には、裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用があり、契約を無効としなければ地方自治法214項、地方財政法41項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる。

    よって、本件契約は私法上無効であり、これを締結した訴外組合の行為は違法なものである。

 (3)仮に本件契約が無効でなくてもこれを締結したことが違法であること

    仮に本件契約が私法上無効とまでは言えないとしても、上記(2)で述べたことからすれば、当該契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存在することは明らかである。

    また、本件契約書(甲2641項によれば、同条2項の損害賠償義務の問題はあるものの、3か月前に通知することにより契約期間中であっても本件契約を解除することができる。そのため、本件では客観的にみて、当該地方公共団体が当該契約を解消することができる特殊な事情があるといえる。

    したがって、訴外組合の管理者(被告)は、これらの事情を考慮することなく、違法な契約に基づく義務の履行として当該契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務に漫然と違反して本件契約を締結したものである。

    よって、仮に本件契約が私法上無効とまでは言えないとしても、その締結は違法なものである。

 2 並木克巳に対する損害賠償請求について

   被告は、訴外組合の現管理者であり、地方自治法242条の214号の「執行機関」にあたり、訴外組合の職員の行為により訴外組合に損害が生じたときは、当該職員に対し損害賠償の請求をする義務を負うものである。

   本請求は、上記第1項で述べた、違法に締結された本件契約に基づき本件組合がした公金支出(将来分を含む。)によって、本件組合に生じた損害の賠償を求めるものである。なお、当該公金支出に係る損害賠償義務を本件組合に対して負うべき者は、訴外組合の管理者である並木克巳個人である。

 

第2 請求の趣旨の訂正について

   訴状記載請求の趣旨第1項及び第2項は、執行機関である被告ではなく、地方公共団体である訴外組合に対する請求を記載するもの(但し、被告欄には執行機関である「柳泉園組合 並木克巳管理者」との記載がある。)であり、誤りである。

   また、請求の趣旨第2項は、契約の締結により委託費全額について損害賠償請求をすることを求めるものであるが、既払分に減縮する必要があると思料される。

   以上により、次回期日までに訴えの変更を申し立てる予定である。

以上

 

証拠方法

 

1 甲第1号証  柳泉園クリーンポート長期包括運営管理事業に係る平成29428日付委託契約書

2 甲第2号証  「住民監査請求に基づく監査結果について(通知)」と題する書面