原告準備書面(10)

平成29年(行ウ)第39

 

原告 阿部洋二 外13

 

被告 柳泉園組合管理者 並木克巳

 

 

 

準備書面(10

 

 

 

平成31121

 

 

 

東京地方裁判所民事第38部 御中

 

 

 

原告ら訴訟代理人弁護士 小沢一仁

 

 

 

第1 被告第3準備書面に対する認否

 

1 第1「原告らの主張・無効原因」

 

(1)同第1

 

    認める。

 

 (2)同第2

 

    争う。

 

 2 第2「本件契約に違法・無効事由はないこと」

 

 (1)同第1項「実質的に随意契約でないこと」

 

  ア 同(1

 

    第1段落は概ね認める。

 

    第2段落は認める。

 

    第3段落は不知。登録業者数は原告らにおいて確認できないし、具体的にいかなる基準でいかなる手続きにより登録がされるか不明なので、参加資格要件の明示から入札公告日までの間に登録をすることができたかも不明である。

 

    第4段落は不知。

 

    第5段落は争う。

 

    第6段落は不知。

 

    第7段落は争う。前提事実の立証がない以上、被告の主張は成り立たない。

 

  イ 同(2

 

    第1段落は概ね認める。

 

    第2段落は争う。

 

    第3段落の内、会社法7501項の存在は認め、その余は争う。原告らの主張の趣旨は、入札公告時に予定されていなかった訴外エンジニアリング社の吸収合併による消滅を審査委員会に伝えなかったという訴外組合の態度が、実質的随意契約であったことを推認させる間接事実のひとつというものである(原告ら準備書面(620頁の2以下参照)。

 

    第4段落は争う。

 

  ウ 同(3

 

    第1段落は争う。

 

    第2段落は争う。原告の主張の趣旨は、前記イ第3段落記載のとおりである。

 

  エ 同(4

 

    争う。

 

 (2)同第2項「委託費は過大でないこと」

 

    第1段落は認める。

 

    第2段落の内、乙1の方が乙4より1,500,000,000円以上下回っていることは認め、その余は争う。

 

    第3段落のうち、被告第1準備書面の記載の存在は認め、大規模修繕の必要性は争う。そもそも、適切に管理していれば、大規模改修工事を行わなくても焼却炉は30年程度使用することができる。また、訴外組合では、大規模改修工事の必要性に関する具体的な検討・調査を全く行っていない(甲5、甲141~甲143)。調査を行っていないため、どの点に不具合があるか確かめていない。その結果、大規模改修工事の具体的内容すら決まっていなかったため、大規模改修工事の必要性は、無かったと言える。また大規模改修工事は請負契約として、必要なときに別途個別発注すれば足りたことである。

 

 (3)同第3項「財源の根拠はあること」

 

    第1段落は認める。

 

    第2段落は争う。負担金は義務費でない(原告ら準備書面(410頁の3以下参照)。

 

    第3段落の内、その旨の記載が乙4の資料3にあることは認める。

 

    第4段落は争う。

 

 (4)同第4項「廃棄物処理法に違反しないこと」

 

    認否の限りでない。

 

 (5)同第5項「訴外エンバイロメント社は本件契約締結権限を承継していること」

 

    第1段落は認める。なお、補足すると、原告らの主張は、本契約の締結それ自体に係る議会承認を仮契約締結前にすべきというものではない。仮契約に先立ち、本契約の締結ための予算に係る議会承認をすべきというものである。本件では、平成29222日の定例会において、平成29年度の一般会計予算案が可決されているものの、この時点ではあくまでも委託契約としての本件契約に係る予算について可決したに過ぎないので、法9615号及び本件条例に違反している。

 

    第2段落は争う。

 

    第3段落は争う。

 

 (6)同第6項「請負契約としての入札手続きが行われていないこと」

 

    認否の限りでない。なお、この点に関する主張は原告ら準備書面(9)のとおりである。

 

 (7)同第7項「仮契約締結の方法は柳泉園契約事務規則に反しないこと」

 

    第1段落は認める。

 

    第2段落は争う。

 

    第3段落の内、被告が示す各書面が作成されたことは認め、その余は争う。

 

    第4段落は争う。

 

    第5段落は争う。

 

 (8)第8項「結論」

 

    争う。

 

 

 

第2 被告の主張に対する原告らの反論

 

  被告は、原告の主張として7点を列挙し、主張に根拠が無いという。

 

まずこの第2では、原告の主張に沿って反論し、第3では、より広い問題意識から反論する。

 

 1 実質的には随意契約であること

 

 (1)入札参加資格が過度に制限されたものであること

 

    被告は、本件契約に係る入札参加資格要件(乙32頁の(2))が、入札参加資格を過度に制限するものではないと主張する。

 

    しかし、被告が委託したコンサルタントによる判断によっても、入札参加資格を満たしうると判断されたのは400社以上の登録業者の内、わずか10社であった。

 

    また、その10社の内、対応可能と回答したのは5社であり、さらに実際に応募したのは訴外エンジニアリング社と訴外テスコ社の2社であった。なお、対応可能であるのに入札に参加しなかった3社について、その理由は経営判断であると被告は主張するが、その真否は不明である。

 

    焼却炉の大規模改修工事は、焼却炉の基幹部分を取り換える工事であり、いわゆる焼却炉メーカしか手掛けることができない。その意味で本件のような入札条件を示した時には、実際に手掛けることができる焼却炉メーカが、その5社の中に入っていたのか?はなはだ疑問であり、実際に2社しか応札していないことが、その条件の厳しさを示していると言える。

 

     さらに、被告は実施方針及び入札参加資格要件を公表した平成2881日から同月31日までの間に、未登録業者が希望すれば、登録可能であったことも入札が過度に制限されたものでないことの理由に挙げるが、そもそも登録がいわゆる「届出制」のような比較的緩やかな要件により認められるのか、あるいは一定の要件を満たす必要があるのか不明であるし、その周知の方法も不明であるから、未登録業者が実際に登録できる可能性があったかにも疑義がある。

 

加えて、(特に届出制のように容易に登録することが可能な場合は)単に訴外組合に登録しておけば良いという程度の要件であるなら、かかる要件を定めることの合理性に疑義がある(届け出れば容易に登録可能なものであれば、そもそも訴外組合への登録を要件にして、参加資格を制限する必要がない。)。

 

以上によれば、被告の主張を前提としてもなお、入札参加資格は過度に制限されたものであったといえる。

 

 

 

 (2)訴外エンジニアリング社の吸収合併による消滅を審査委員会に伝えなかったことは実質的随意契約であったことを推認させる間接事実といえること

 

    訴外エンジニアリングが、本件入札に応札しながら、本件事業が開始する前には、訴外エンバイロメントに吸収合併されるという事が、入札締め切りの前日に解り、そのことを訴外柳泉園組合が、審査委員会に伝えていなかったという事実は被告のどのような説明でも、釈明できるものではない。

 

もしその時点で、審査委員会に報告していれば、訴外エンジニアリングは、入札を受理することが断られ、訴外エンバイロメントが入札資格があるかどうかの審査に入ったであろう。

 

詳細な説明として、被告は、応募者の制限(乙3の2頁の(3))に倒産手続きが含まれる趣旨は、業績が悪化した会社を排除できるものであるとして、「吸収合併の場合はには、応募資格が制限されるはずがない」と入札参加資格要件に影響を与えないと主張する。

 

    しかし、吸収合併をする理由として、吸収合併消滅会社の業績悪化が含まれる可能性もあることからすれば、上記被告の主張を前提にしても、訴外組合が訴外エンジニアリング社が吸収合併によ消滅することを審査委員会に報告しなかったことは不自然である。

 

また、再建型倒産手続(民事再生・会社更生)においては、経営陣の刷新による経営方針の変更が往々にして行われるため、このような側面からも応募者の制限に倒産手続きは含まれているものと考えられるところ、吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の経営方針をそのまま引き継ぐとは限らないことからすれば、この点からも、訴外組合が訴外エンジニアリング社が吸収合併によ消滅することを審査委員会に報告しなかったことは不自然である。

 

さらに、そもそも訴外組合は、訴外エンジニアリング社が入札に応募した平成28915日の前日である同月14日に、訴外エンジニアリング社が平成2931日に、訴外エンバイロメント社に吸収合併されることにより消滅することを知っていた。

 

これを前提にすると、結果的に会社法7501項により訴外エンバイロメント社が訴外エンジニアリング社の地位を包括承継することになるとしても、審査委員会に吸収合併の予定を伝え、訴外エンバイロメント社に入札への参加を促すなどの対応がされて然るべきなのに、訴外組合は吸収合併の予定自体審査委員会に伝えなかった。

 

なお、訴外組合の議会における回答によれば、これを伝えなかった理由は業者が審査委員会に特定されること及び親会社に吸収合併されることで組織が大きくなることが審査委員会に知られることで不公平を招くことを回避するためであったとのことであるが(甲824頁の下から9行目以下)、吸収合併の予定があることを伝えるだけでは業者の特定には至らないし、組織が大きくなることが事実である以上、これを審査において考慮しても何ら不公平とはいえないことからすれば、係る訴外組合の回答は、上記不自然さを解消することにならない。

 

このように被告は、審査委員会が訴外エンジニアリングの入札自体を受理するものとして論を進めているが、本件入札条件をクリアーしていたとしても、最大の条件である本件事業を受理できる条件に欠けるため、もし報告していれば訴外組合は入札受理すらできなかった可能性についての言及がない。

 

またその訴外組合は、その消滅報告を受理し、審査委員会に報告した時点で入札の締め切り期間(15年9月15日)をオーバーし、訴外エンバイロメントに入札を促すこともできず、その場合は、訴外テスコのみの応札になり、競争入札は成立していなかったことは事実経過として想定できる。

 

以上によれば、訴外エンジニアリング社の吸収合併による消滅を審査委員会に伝えなかったことは、訴外エンジニアリングと訴外エンバイロメントの吸収合併という私企業の事情に、公共的入札にあたって特別の配慮を行う、実質的随意契約であったことを推認させる間接事実といえる。

 

 (3)小括

 

    以上によれば、本件契約に基づく公金の支出は、地方自治法 2342項、同法施行例167条の211号違反である。

 

 2 委託費が過大であること

 

   被告は、委託費全体として見れば、乙4より契約時の委託費が1,500,000,000円以上減額されているのだから、お手盛りの事実はないと主張する。

 

   しかし、原告ら主張書面(49頁以下で述べたとおり、本件では固定費Aや固定費Bの金額に不自然な変遷があり、そのことについて合理的な理由が見られない。

 

そもそも第3で詳述するが、大規模改修工事という工事契約と運転管理という委託契約は、本来なら分割して契約すべき性格のものであり、それを、一つの契約に混合し、その結果分割した時よりは過大な「委託費」がかかるという事が、不合理である。

 

費目が固定費B(大規模改修に関するもの)と、固定費A(その他の維持費に関するもの)と明確に区別されている以上、全体として減額されていればよいということにはならない。

 

そのため、本件契約上の委託費の支出は、地方自治法214項、地方財政法41項に違反する。

 

この件も第3で詳述する。

 

 3 財源の根拠がないこと

 

   原告ら準備書面(411頁の3で述べたとおり、負担金は義務費ではない。

 

 4 廃棄物処理法違反であること

 

   原告ら準備書面(411頁の4で述べたとおりである。

 

 5 訴外エンバイロメント社は本件契約締結権限を承継していないこと

 

   被告は、原告らの主張の趣旨を、「仮契約の締結前に本件契約締結に係る議会の議決を経る必要があるところ、これを経ていないため、仮契約の締結は地方自治法9615号及び本件条例に違反する」と捉えている。

 

   この点について補足するに、原告らの主張の趣旨は、仮契約に先立ち、本契約の締結ための予算に係る決議をすべきというものである(「予算決議→入札手続き→仮契約→議会承認→本契約」という流れであるべきである。)。

 

しかし本件では、平成29222日の定例会において、平成29年度の一般会計予算案が可決され、その中に本件予算案が示されているものの、この時点ではあくまでも委託契約としての本件契約に係る予算について可決したに過ぎず、請負契約を含むことを前提にした決議を経ていない。

 

大規模改修工事という工事契約を委託契約の中に包含した提案になっていて、この取り扱い自体後述するように建設業法違反である。

 

よって、仮契約は法9615号及び本件条例に違反し無効であり、訴外エンバイロメント社は、訴外エンジニアリング社の仮契約者としての地位を承継していないから、本件契約に基づく公金の支出は違法である。

 

この件も第3で詳述する。

 

 6 請負契約としての入札手続きが行われていないこと

 

   原告ら準備書面(9)で述べたとおりである。第3で詳述する。

 

 7 仮契約締結の方法は柳泉園事務規則に反しないこと

 

   被告は、甲6のやり取りでもって柳泉園組合契約事務規則55条の要件を満たすと主張する。

 

しかし、仮契約書の約款が添付されているとはいえ、協議書面の送付及びこれに対する承諾書面の交付では、文言上「契約書により仮契約を締結しなければならない」とする事務規則55条の要件を満たさないことは明らかである。

 

また、被告は、柳泉園組合契約事務規則55条の趣旨は合意内容の明確化であるところ、甲6のやり取りでその趣旨が満たされることも、同規則に違反しない理由とする。

 

しかし、同規則の趣旨は、契約書という合意書面の作成により、当事者が契約書記載の内容に確実に合意したことを示すことで、行政実務の安定を図るものであるところ、甲6では、申し込みと承諾の意思表示が別の書面により行われているため、当該趣旨を満たさない。

 

付言すれば、契約書は、仮契約書と契約書の2種類があるわけではない。先に示した「予算決議→入札手続き→仮契約→議会承認→本契約」の流れでの仮契約は、自治体と事業者の合意した内容で契約書が結ばれるが、その際その契約書は、議会に提案され正式に契約書として発効する。

 

自治体と事業者が契約を交わした段階では、契約書の表書きに「仮契約書」と「仮」の表記を「契約書」につける。議会でその「仮契約書」が承認された時には、仮の字を削るだけである。つまり同じ契約書なのである。

 

契約にあたって収入印紙は、その契約の事業規模によって、収入印紙の値段が変わるが、「仮契約書」「契約書」の締結ごとに支払われるのではなく、基本的に同じ契約書なので収入印紙は1度で済む。

 

ところが、本件の場合は、訴外柳泉園組合と訴外エンジニアリングが仮契約を交わしたという時点(17年3月28日)と本契約を議会で承認した時(17年4月20日)とは、契約対象が訴外エンジニアリングと訴外エンバイロメントに変わっている。そのために訴外柳泉園組合と訴外エンジニアリングとの間では、契約書は交わせていない。訴外エンジニアリングは、17年3月31日に消滅しているため、契約書を交わした4月28日の時点での相手方は、訴外エンバイロメントになっている。

 

 

 

このように本件での契約の経過を見ると、訴外柳泉園組合と訴外エンジニアリングとの仮契約は、契約金額すら記載されず、そこに添付されている収入印紙は200円のものである。

 

明らかに訴外柳泉園組合と訴外エンジニアリングは、仮契約すら完了していないと言える。

 

以上によれば、被告の反論は成り立たない。

 

この件でも第3で詳述する。

 

 

 

第3 被告準備書面(3)への追加反論

 

1 「実質的に随意契約である」について

 

(1)門戸の狭い厳格なものであったについて

 

被告は過去10年間に受注実績を有し、1年以上の運営実績を有するとの要件が訴外組合からの発注に限定されず、広く地方公共団体発注による事業を受注したものであればよいとしていると主張する。

 

しかし問題となっているのは、訴外柳泉園組合における過去10年以内の受注実績である。

 

一般的には地方公共団体発注事業の受注実績を要件にするのが一般的である。しかし、募集要件が、あえて、訴外組合における受注実績とされている。訴外組合の意図するところであったと思料するのが妥当である。

 

入札希望事業者が、問い合わせの結果「訴外組合におけるもの」との回答があれば、それ以外は資格が満たされていないとして入札を見送るのは当然の成り行きである。

 

(2)訴外エンジニアリングの吸収合併による消滅について

 

被告は「原告らは、訴外エンジニアリング社が吸収合併により消滅することを審査委員会に伝えていれば、同社の入札参加資格が認められなかった可能性があるのにこれを伝えなかったのは、同社を落札者と決めていたからだと主張する。」と述べている。

 

ア)消滅する企業の入札を認めた許されない事情

 

ここでは、原告らは、訴外組合が合併により消滅する企業の入札参加を認めたのはなぜか、を問題にしている。入札に参加したのが、なぜ訴外エンバイロメント社ではなく訴外エンジニアリング社だったのか。訴外エンバイロメント社が入札に参加すれば済む話ではないか。

 

そこに理由があるとすれば、入札参加条件が、訴外エンバイロメント社を排除すると同時に他の焼却炉ゼネコンの入札参加を排除し、唯一訴外エンジニアリング社のみが持つ訴外組合での実績を最大限評価し、あたかも公正に入札行為が行われたかの如くに装うためであったのは明らかである。

 

柳泉園組合の焼却炉は、日量処理量105トン規模の焼却炉が3基ある。このような規模の焼却炉の建設は、大手の焼却炉メーカでなければ不可能である。こうした焼却炉メーカとして知られているのがいわゆる焼却炉ゼネコンである。東京都の指定業者として全国を席巻して、事業を分け合った焼却炉メーカは、日立造船、三菱重工、タクマ、日本鋼管=JFE,石川島播磨重工業などいずれも株式会社などが有名である。しかし過去10年の柳泉園組合での実績とくくって入札参加条件を示せば、そうした焼却炉メーカは、最初から排除される。

 

柳泉園組合の焼却炉を建設した住友重機械工業()やその住友重機械工業の関連子会社で、運転管理と定期点検補修工事を担ってきた訴外エンジニアリングに限定されることになる。

 

審査員会は、入札に参加した訴外エンジニアリング社と訴外テスコ社の双方ともが優秀であったとしながら、価格的には高額の提示になった訴外エンジニアリング社によりすぐれているとの評価を与え、落札企業としている。

 

こののち、訴外エンジニアリング社と契約し、訴外エンバイロメントが訴外エンジニアリングを吸収しその権利を引き継ぐという筋書きで終わらせるつもりであった。

 

 

 

イ)訴外エンバイロメントへの受け渡しの破たん

 

しかし、ここで想定外の事態が起こった。本件契約を委託契約として議会に説明して進めてきたものの、工事の請負が契約の中に含まれることが明らかになり、議会の議決を得ることが必要とされた。議会の議決を得る必要がある契約、いわゆる議決案件は「地方自治法961項第5号の規定により議会の議決に付さなければならない契約は、予定価格15千万円以上の工事又は製造の請負とする」(議会の議決に付すべき契約及び財産の取得または処分に関する条例第2条)と定められており、工事請負の契約を委託契約、すなわち、議会の議決を必要としない契約とすることはできない。

 

工事の請負であれば、請負金額、工事内容、工事時期、工期、施行方法などが定められなければならない。しかし、委託契約とされたならば、工事内容、工事時期、工期、施行方法は業者が定めることになる。また、あらかじめ委託金額は定められており、工事の必要性、その程度などの詳細までもが企業任せにされることになる。こんな丸投げ契約など、公共事業においてはあり得ないことである。税金で運営されている地方公共団体として、公金の管理は厳格でなければならない。(地方自治法第2条(14)「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては住民の福祉の増進に努めるほか、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」)

 

ウ)仮契約を巡るドタバタ経過

 

議会の議決が必要になった時点で、工事請負契約を委託契約の中に含めることができないことを認識するべきであったにもかかわらず、委託契約のまま工事請負契約ができるものと強弁し、形式的に議会の議決を得れば契約が成立するとして契約を強行したものである。

 

また、議会の議決を得ないまま、訴外エンジニアリング社は消滅することとなり、本契約を結ぶことができなくなってしまった。そこで苦肉の策として「仮契約」を結ぶのだが、議会の議決を得た時点では会社はすでに消滅している。仮契約を有効にするための議決がすでに消滅してしまった会社を対象に行えるのか、そもそも、そのような企業と仮契約が結べるのか、普通に考えればありえないことである。

 

被告は会社法7501項により訴外エンバイロメント社が訴外エンジニアリングの権利義務一切を合併により引き継いだと主張するが、訴外エンジニアリングが所持していない権利まで訴外エンバイロメント社が継承することなどありえない。

 

「入札の結果、訴外エンジニアリング社が選ばれた以上、同社または同社を吸収合併する訴外エンバイロメント社と契約することは当然である」と被告は主張する。

 

しかし、先に述べた通り、訴外エンバイロメント社ですら入札に参加できない条件を付して多くの同業他社を排除し、確実に訴外エンジニアリング社が落札できる条件を整備したうえで、落札の果実を吸収合併でかすめ取るような手法が是認されるならば、公正な競争は成立しない。訴外組合が行ったのは実質的には随意契約であったと言わざるを得ない。

 

以上のごとく、そもそも訴外エンジニアリング社、ひいては訴外エンバイロメント社を契約の相手方とするべき策が巧妙に張り巡らされた、実質的な随意契約であったことは疑いの余地を 入れない。

 

2 被告準備書面(3)の第22「委託費が過大である」について

 

 被告は原告らが平成282月の「実施方針」と平成294月「臨時議会資料」で経費の内訳が変化していることを指摘し運転等委託と工事請負契約を一緒にせず、正しく分割して発注していれば経費は削減されている、と主張していることに対して、「全体額でみれば、契約時のほうが乙4より15億円以上も下回っている」と主張している。

 

しかし、入札にあたって、準備された予定価格との関係が実際に問題となる。

 

「実施方針」(予定価格)では総経費144億円中大規模補修費用が71億円、その他の費用が73億円である。

 

この大規模改修費用が、71億円から39億円に、実に32億円の減額になっている。

 

他方、その他の費用は73億円から94億円へと21億円も増額となっている。

 

一般的に言って、入札の予定価格を上回ったら失格になる。

 

そもそもその他の運転管理などの費用を73億円でやってくれと言っているのに、うちは94億円でなかったらできませんという言い分が通用するわけがない。73億円でと言えば、これが入札の上限価格になるのは当然のことだ。

 

実際にも工事の発注は、請負契約となり、運転管理委託とは、法律上も分離、分割発注にしなければならない。

 

分割発注していれば、

 

大規模改修工事は、71億円の予定価格。

 

その他の管理委託は、73億円の予定価格となる。

 

今回と同じ落札額だとしたら、

 

大規模改修は、39億円で受注するという事であり、

 

一方その他の管理委託費用は、予定価格を超えることができないため、73億が上限となる。

 

つまり、分離・分割発注していれば、契約合計金額は、39億円+73億円で、112億円となる。

 

今回は133億での落札価格であったため、21億円柳泉園組合は、高い価格で落札したことになる。

 

訴外エンジニアリング社がコンサル業務として行った長期包括管理運営事業の経費試算そのものがいい加減なものであったか、故意に経費を操作していたものと考えざるを得ない。

 

被告は大規模改修工事の必要性を具体的に全く調査・検討していない。どの時期に、どの程度の規模で、どのくらいの費用をかけて工事をやるのかまで業者に丸投げすることが行政の仕事として許容されていない。

 

3 「財源の根拠がない」について

 

  被告は「構成3市の訴外組合に対する負担金は、規約に定めるところにより支出が義務付けられる義務的経費である」とし、仮に議会が否決をしても市長は予算に計上し、支出することができる旨の主張をしている。

 

(1)義務的経費が適用されるのは、初年度のみ。

 

義務的経費が適用されるのは、初年度のみであり、2年次からは債務負担処理が必要となる。

 

自治体の予算は単年度主義であり、(第2081項:普通地方公共団体の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わるものとする。同2項:各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつて、これに充てなければならない。)総計予算主義を採用している。(第210条 一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない。)

 

訴外組合は将来の負担部分については債務負担行為を設定して、負担の先送りを図った。その財源として構成各市の負担金を当てにしているわけだが、自治体は単年度主義で運営されており、訴外組合への義務費としての支出は、当該初年度の負担金にとどまる。

 

翌年度以降については各年度ごとに、訴外組合の予算により算出された負担金額が構成各市に通知される。被告はこれ以降のことも含めて義務的経費だとしている。原告らが問題にしているのは、次年度以降の負担金はまだ額が確定しておらず、構成各市に負担を求めるのであれば構成各市はそれを想定した予算組みをする必要がある。したがって、構成各市においても債務負担行為の設定が必要である、そのことを欠いたままでは財源の裏付けがあるとは言えない、と主張している。

 

(2)構成市でも債務負担処理が必要

 

法第214条において「歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と記されている。構成各市が将来の義務的経費として訴外組合から要求されるものであれば、構成各市は「債務負担行為」として予算に計上しておかなければならない。

 

昨今の一部事務組合では、構成団体の減少、増加、組合そのものの消滅など、さまざまなことが起こっている。そこで、原告の森が西東京市に議会で「西東京市はその支払いを仮に柳泉園から離れるようなことになったとして支払い義務が残るですか」と問うたところ「柳泉園組合が、市長からお答え申し上げましたけれども、特別地方公共団体としての法人格を有して、その範囲内で事務を執行するという権能を有していることから、柳泉園組合が債務負担行為を設定したとしても、直ちに本市が債務負担の義務を負うということにはならないと考えております。」との答弁を得ている。訴外組合の債務負担行為に対して構成市は、自らその分を債務負行為として、会計処理をしない限り、支払い義務を負っていないと言える。

 

実際に訴外組合は、本件15年の長期包括契約を締結するにあたって、訴外組合として、債務負担行為の会計処理を行っているが、構成各市は行っていない。実際に構成各市がどのように分担するのかさえ、決めていないため構成市での債務負担は不可能であった。

 

従って本件契約に戻って、訴外組合は将来の債務負担に対して適正な財源の裏付けを持っていないことは明白である。

 

 

 

4 「廃棄物処理法違反である」について

 

  廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)第6条において市町村が廃棄物処理基本計画を作成し、それに従って処理することが義務付けられている。(「第6条 市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以下「一般廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。」「第6条の2 市町村は、一般廃棄物処理計画に従つて、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分(中略)しなければならない。」)

 

上記廃棄物処理法の定めによって、基礎自治体である市町村は、一般廃棄物処理計画の下に、家庭や小規模事業者から排出される一般廃棄物を収集し、中間処理し、最終処分するそれぞれの市町村ごとの処理計画を作成する。

 

訴外組合などの一部事務組合は、構成市の基本計画に基づき、処理する中で、中間処理を共に行う組織として訴外組合を結成している。

 

従って一般廃棄物の処理は、構成市と一部事務組合との関係で見ると、構成市の基本計画があって、その処理処分方式を考えた上で、

 

中間処理や最終処分が同一の時には、一部事務組合を作って共同処理するという関係にあり、一部事務組合が、独断専行し、それに構成市が従うという関係にはない。

 

例えば、訴外組合は、ごみの焼却施設であるが、もし構成市がごみは焼却せず、生ごみ等はメタン発酵し、紙ごみやプラスティックごみは、資源利用するというごみ処理の方法を決めたとすると、自動的に、訴外組合のようなごみの焼却組合からは、脱退する形を取ることになる。

 

そのような大変化とまでいかなくても、構成市では日夜ごみの減量に励み、ごみの有料化等も実施している。

 

そうした中で今回の長期包括契約は、構成市からのごみの排出量がこれまで通りに続くものとして、計画を立てており、その意味で廃棄物処理法に違背していると言える。

 

 

 

5 「議会の議決を経る前に仮契約を締結した」について

 

被告は原告が「請負契約を含む本件契約においては、仮契約の締結前に本件契約締結に係る議会の議決を経る必要があり、これを経ていないため、仮契約の締結は地方自治法9618号(5号の間違いではないかと思われる)及び本件条例に違反すると主張する」とし、原告がこのことを違法・無効事由にしているとするが、原告はそのような主張をしていない

 

そもそも訴外組合契約事務規則は、その第48条第1項で「管理者は、一般競争入札、指名競争入札若しくはせり売りにより落札者若しくは競落者が決定したとき、または随意契約の相手方を決定したときは、遅滞なく次に掲げる事項を記載した契約書2通を作成しなければならない。ただし、契約の性質または目的により該当のない事項については、その記載を要しないものとする。」と規定し記載すべき事項として「(1)契約の目的(2)契約金額(3)履行期限(4)契約保証金に関する事項(5)契約履行の場所(6)契約代金の支払又は受領の時期及び方法(7)監査及び検査(8)履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金(9)危険負担(10 )かし担保責任(11 )契約に関する紛争の解決方法(12 )その他必要な事項」と定めている。

 

契約金額が15千万円を超え、議会の議決が必要となる請負契約についての手順は、

 

①当該契約に必要となる予算を議会で議決する②競争入札を実施する③落札企業が決定したら上記「契約事務規則」に定める契約書を取り交わす④その際契約書には「議会の議決を得た時に本契約が成立する旨を記載し仮契約とする(「議会の議決を得た時に本契約が成立する旨を記載した契約書により仮契約を締結しなければならない」(契約事務規則第55条))。⑤議会の議決を得たのちに本契約に移行する、というものである。議決の前に仮契約を結ぶのは当然の手続きである。

 

本件契約の相手方となる訴外エンジニアリング社は契約時には消滅している。消滅企業との間に契約は存在しえない。「仮契約」は存在しえない。平成29420日の議会の議決は前提を誤ったものであり無効である。

 

議会の議決を得た時に本契約が成立する旨を記載した有効な契約書による仮契約がなされなかった訴外エンジニアリング社が契約の権利を保持することはなく、したがって訴外エンバイロメント社が継承する契約などどこにも存在しない。 

 

仮契約については、7でさらに詳細に述べる。

 

 

 

6 「請負契約であることを前提とした入札が行われていない」について

 

すでに第11、第12において触れたが、工事の請負においては、建設業法第191項「建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。」が適用される。記載事項とは

 

工事内容

 

請負代金の額

 

工事着手の時期及び工事完成の時期

 

請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

 

当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

 

天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

 

価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

 

工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

 

注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め

 

注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期

 

工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

 

工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容

 

各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金

 

契約に関する紛争の解決方法」の14項目のことである。

 

建設工事の請負をするときには、契約書(又は注文書と請書や電子契約書)を作る義務がる。

 

また、同法第24条では「委託その他いかなる名義をもつてするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する。」とされ、「委託契約である」、あるいは「委託契約に含まれる」として、建設工事の請負契約に係る同法19条の書面の作成を怠ったとすれば違法である。

 

なお、本件委託契約に含まれると被告が主張する工事の請負においては、示されているのは根拠の薄弱な、おおむね建設後15年くらいに大規模改修を実施し30年程度運転するのが一般的であるという抽象的な言葉のみでその具体的な必要性、必要となる時期、必要となる工事内容、それに対する施行方法、必要な工期、設計図書など何らの具体的定めもなく、業者がいいようにできる丸投げ状態になっており、このような契約は地方自治法の許容するところではない。

 

 

 

7 「仮契約書による仮契約が締結されていない」について 

 

被告は「原告らは、仮契約書と題された書面により仮契約が締結されていないことを持って、柳泉園契約事務規則55条に反すると主張しているようである」とこれまた原告が主張していないことをでっち上げて自らを正当化しようとしている。被告は「「仮契約書」との表題を付した契約書の作成を義務付けるものではない」と原告が主張している内容を捻じ曲げて、「仮契約書」という文書が必要だと主張しているように印象付けようとしている。

 

すでに5で述べた通り、原告らは「訴外組合の契約事務規則は、契約書により仮契約を締結することとしたものであり、契約書なくして仮契約はあり得ないことを示している」旨の主張をしている。

 

被告は「仮契約の締結について(協議)」と「承諾書」によって仮契約が成立している」と主張するが、この2点の文書は仮契約をどうするかについて言及したものであって、契約書ではない。訴外組合の契約事務規則は「落札者が決定したら遅滞なく契約書を作成しなければならない(契約事務規則48条)」旨を定め、「議会の議決を得た時に本契約が成立する旨を記載した契約書により仮契約を結ばなければならない」と定めている。上記「仮契約の締結について(協議)」と「承諾書」は契約書ではない。有効な契約書が交わされず、仮契約は成立していない。

 

行政の実務上の手続きとしては、通常、行政は契約書(本契約書)を作成し、議会の議決を得た時に本契約が成立する旨を記載し、契約書に(仮)と表題にカッコ書きをして流用する。議会の議決を得た時には「仮」の字を線で消して「契約書」とする。

 

理由は二つある。一つは契約書の内容が仮契約書と同じものであることを明示するため。もう一つは、契約書と仮契約書を同じものとすることによって、本来、業者が支払わなければならない印紙税を一回にとどめるためである。有効な契約書であれば、仮契約書であっても、本契約書であってもそれぞれに印紙税が発生する。この点から見ても、契約書が交わされていた事実はなかったというべきである。

 

なお、本件の印紙税額は1通当たり50万円となるが、訴外エンジニアリング社の「承諾書」には200円の収入印紙が貼られている。が、意味不明である。そもそも契約金額すら記載が無い。

 

さらに、契約の承認を求めた議会での議決の際に、仮契約の相手方である訴外エンジニアリング社がどこかに消えてしまって、いきなり契約の相手方として訴外エンバイロメント社が登場するというありえないことが起こっている。「仮契約」の相手方と「(本)契約」の相手方とが違っていれば契約書は名義が違うのだから別々に2種類あって当たり前であるが、ない。

 

契約が完了したのちに合併によって権利が継承されるのが会社法7501項の趣旨であり、成立していない契約を継承することなどありえない。

 

ことさらに入札条件を狭めて、訴外エンジニアリング社、また訴外エンバイロメント社と実質的な随意契約を結び、その後に起こった予想外の出来事にも違法行為を積み重ね、違法な契約を有効ならしめようとしたことは市民の負託に応えるべき行政として許されるものではない。   

 

 

 

 

 

以上