原告準備書面 第3

平成29年(行ウ)第39

 

原告 阿部洋二 外13

 

被告 訴外組合管理者 並木克巳

 

 

 

準備書面(3)

 

 

 

平成291018

 

 

 

東京地方裁判所民事第36部 御中

 

 

 

原告ら訴訟代理人弁護士 小沢一仁

 

 

 

第1 本件契約締結の違法性に係る原告の主張の整理

 

 1 一部事務組合における大型契約における財務会計及び基本計画上の法令遵守 

 

 (1)訴訟提起の意味

 

原告らが本件訴訟において最も問題としているところは、本件契約締結に至る経緯及び本件契約の内容によっては、ごみの処理が法令や住民自治の定めに基づき進められないこと、並びに自治体の首長や行政、特定業者などによって、契約内容を住民(ないし住民を代表する議会)に明らかにすることなく勝手に進められれば、結局過大な負担を自治体住民が負担する結果になることである。

 

まず、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)では、地方自治体における基本単位は、市町村であり、その市町村の家庭や小規模事業者から排出される廃棄物、いわゆるごみは、一般廃棄物として産業廃棄物とは区別され位置づけられている。そして、その処理は、当該市町村が「一般棄物処理基本計画」を作り(廃棄物処理法第61項)、処理するにあたっては、その「一般廃棄物処理計画」に基づき、処理すること(同法第6条の二)が定められている。

 

ごみ処理において、廃棄されるごみを、ただ漫然と次々に処理してゆけば、莫大な処理費や埋め立て処分費が必要となる。そのため、ごみの分別資源化によって、ごみとして処理する量を減らし、市町村においても、その援助を行う都道府県や国における費用を削減することが謳われ、ごみの資源化リサイクル活動、3R(リデュース、リユース、リサイクル)活動などが、国を挙げて推奨されてきた。その最初の一歩が、市町村である。

 

廃棄物処理法でもこのようなことが意識され、ごみの排出源での分別リサイクルの重要性を考え、住民の生活に最も近い市町村が、基本計画を作り、その基本計画に基づきごみの処理を進める旨定めた。

 

ごみの中間処理を行う一部事務組合は、市町村が行うごみの処理、収集、焼却や破砕などの中間処理、そして埋め立て、資源化などの最終処分の内、中間処理をいくつかの市町村が共同で実施するものであり、全国では、市町村単独で行うところの他、かなり多くの自治体が一部事務組合を作り、中間処理を共同で行っている。その一部事務組合の運営は、したがって構成自治体からの分担金で賄うようになっている。

 

その場合も、各市町村がそれぞれ独自の基本計画を立て、その中間処理だけを共通に行うとしている。あくまでごみの処理については、主体は、各市町村である。このことは、分担金を各構成市が出していることからしても、当然と言えば当然のことである。

 

今回、構成市である西東京市、東久留米市、清瀬市の3市の一部事務組合である訴外組合[4s1] が、構成市の議決機関たる当該構成市議会の了承を得ることなく、年度予算の5倍以上の金額になる契約を締結したことから原告らはこれを問題視した。

 

地方自治法をはじめ、廃棄物処理法で定められている自治体の役割をないがしろにし、自治体住民が知らないところで、莫大なお金が流れていくことをチェックするために本件訴訟を提起したものである。

 

(2)本件契約に財源の根拠がないこと(地方財政法42項、同法4条の2違反)

 

訴外組合は、2016年度補正予算において15年間総額144億円の債務負担行為を決定し、2017年度予算において、15年間総額約134億円の委託費支払い義務が生じる本件契約を締結した。

 

訴外組合における年間総予算の規模は、約20億円から30億円である。数十年に1度と言われている焼却炉の建て替え建設等があると、地方債を起債するため、その返還期間中は、予算規模が大きくなるために、各年度の予算に幅が生じる。本件契約金額は、この通常の予算の約57倍に相当するものであり、単年度では賄うことが到底できないため、その後年度負担について、債務負担行為として会計処理しているのは当然のことである。

 

しかし他方で、訴外組合を構成する基礎自治体である構成3市(西東京市、東久留米市、清瀬市)は、予算上本件契約に係る債務負担行為を設定していない。

 

また、訴外組合は、本件契約により生じる毎年度約9億円前後の委託費を、各構成市から年度ごとに支払われる分担金を主要財源とする訴外組合の予算から支払うとしている。

 

したがって、訴外組合の各構成市は、本件契約と共に、訴外組合が契約相手である住友エンバイロメント社に対して、支払う契約金を、今後毎年度支払う分担金から支払うことを了解しているものとされてしまう。

 

訴外組合と構成3市の関係は、構成3市が、一般廃棄物の焼却を中心とする中間処理を行うにあたって、3市共同で訴外組合にその処理を事務委託しているというものである。地方自治法上は、訴外組合は構成3市の一部の事務を処理する一部事務組合であり、各市の分担金を持って運営されている。

 

本件契約にあたって訴外組合は、後年度負担を考え、会計予算上債務負担行為によって処理しているが、この訴外組合の債務負担行為を財源的に保証する構成市では、契約に基づく後年度負担を債務負担行為として会計処理せず、年度ごとの分担金の中から支払うとしている。

 

地方自治法第2141項には、「歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と定められている。

 

 したがって、各構成市は自らの自治体の一部事務を担う訴外組合が、本件契約を結び、その結果15年にわたって後年度負担が生じ、それを今後分担金として支払う必要があるのであれば、地方自治法第214条第1項の定めに従って債務負担行為を行なわなければならない。

 

一方、訴外組合は、本件契約において、支払い義務の生じる後年度負担について、債務負担行為の処理を行っているが、歳入財源として法にかなったものとして保証されているのは、構成市が予算処理している契約年度である当該年度だけである。

 

なお、この点、過日の西東京市議会において、市側の担当者みどり環境部長松川聡氏も「訴外組合が債務負担行為を設定したとしても、直ちに本市が債務負担の義務を負うことにはならない旨答弁している(甲4:西東京市議会平成29年第2回定例会議事録)。構成市として、本件契約にあたって、債務負担行為を行っていないことを明らかにしており、訴外組合における将来の分担金収入は全く保障されていない。

 

したがって、訴外組合が、本件契約にあたって債務負担行為として行なった財務処理は、今年度を除く後年度負担分の財源は、示されていない。

 

地方財政法42項は「地方公共団体の収入は、適実且つ厳正に、これを確保しなければならない。」旨定め、同法4条の2は「地方公共団体は、予算を編成し、若しくは執行し、又は支出の増加若しくは収入の減少の原因となる行為をしようとする場合においては、当該年度のみならず、翌年度以降における財政の状況をも考慮して、その健全な運営をそこなうことがないようにしなければならない。」旨定めるが、上記のとおり、本件契約締結に際し、収入の確保がされておらず、翌年度以降の財政の状況を考慮した形跡がない。よって、本件契約の締結及びこれに基づく委託費の支出は地方財政法42項及び同法4条の2に違反するものであり、違法である。

 

なお、被告は平成29年度の歳入予算に占める分担金の割合が55.5%であることを指摘し、あたかも訴外組合が、自らの独自事業に基づく財源によって、本件契約金を支払いうるかの主張を行っている。

 

しかし、乙第2号証の平成29年度一般会計予算の内訳によれば、分担金収入がなければいずれにしても本件契約に係る委託費の支払いを含め、訴外組合の事業継続が成り立たないことは明らかである。

 

 

 

(3) 本件契約期間に相当する一般廃棄物処理基本計画が定められていないこと(廃棄物処理法61項、同条2項違反)

 

   廃棄物処理については基本計画を定めて、それに従って実施することが定められている(廃棄物処理法61項、同条2項)。本件についても構成3市はもちろんのこと、訴外組合においても、特別地方公共団体として本件廃棄物処理法の適用を受ける。

 

訴外組合の基本計画によれば、現在の計画期間は2023年までであり、それ以降、本件契約に定められている事業期間である2032年までは計画が定められていない(乙7~乙10)。

 

   また、訴外組合は、構成3市の基本計画に基づき、焼却等の中間処理を行うことになっているが、現在において、少なくとも本件組合と構成3市との間の一般廃棄物処理基本計画との間に、後述する(第12項(3))不燃ごみ中の可燃物の処理について、齟齬が生じている。

 

   [4s2] 

 

   構成3市が訴外組合と異なる一般廃棄物処理基本計画を定めれば、一部事務組合としての訴外組合の一般廃棄物処理基本計画との整合性が取れなくなり、この場合も廃棄物処理法61項、同条2項に違反することになる。そのため、本件契約を締結するに際しては、構成3市において、事前に相互に内容の整合性が取れる一般廃棄物処理基本計画を定められていなければならなかった(定められるまでは本件契約を締結してはならない義務が訴外組合にはあった。)。

 

   しかしながら、本件において訴外組合は、上記各義務を怠り本件契約を締結した。したがって、本件契約の締結及びこれに基づく委託費の支払いは、廃棄物処理法61項、同条2項に違反し、違法である。

 

 

 

 2 大規模改修工事について、

 

1)    大規模改修工事を本件契約に含めること自体の違法性

 

本契約の金額上の過半を占める大規模改修工事は、焼却炉の建て替えすなわち新設に代わる措置として、建て替え時期を延ばすものとして、一般的に行われている。したがってこの工事を行うにあたっては、地方自治法上は、第2341項の「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指 名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする」と定められている。

 

またこうした請負契約の条件の場合は、契約書、契約約款の外、契約図書として「設計図、仕様書、見積書、見積もり内訳明細書、質疑回答書」などをそろえて契約する必要があるが、本件契約にあたって、これらを準備せず契約を行っている。したがって大規模改修工事を含む本件契約は、違法である。[4s3] 

 

(2)大規模改修工事の必要性はなく、過大な支出をしていること(地方自治法214項、地方財政法41項違反)

 

   地方自治法214項は「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」旨定め、地方財政法41項は「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」旨定める。

 

   本件では、本件契約の委託費の内、大規模改修工事に関する部分が半分以上を占めている。したがって、仮に大規模改修工事が不要であれば、委託費を大幅に削減することができた。[4s4] この場合本件契約の締結は最小経費で最大効果を挙げるものとも、目的達成のための最小経費の支出ともいえず、上記各条項に違反する。

 

   [4s5] そして本件では、本件契約に大規模改修工事を含める必要性が認められない。すなわち、環境省では大規模補修を推奨しているが、その実施に当たってはガイドラインを定め、必要性を厳密に見極めることとしている(甲5:環境省ガイドライン)。

 

   乙第11号証では、「15年以上経過すると老朽化が顕著となり、操業条件の変化とも相まって立替が課題として浮上するようになる事例が少なくない」との記載があるが、あくまでも個々の事例を検討した結果に過ぎず、本件についても大規模改修の具体的必要性の検討を要することは当然である。

 

   被告は答弁書11頁~12頁において、乙第11号証の記載を根拠に大規模改修工事の必要性の存在を主張するが、一般論に過ぎず、必要性の検討としては不十分である。また、被告は平成252月開催の訴外組合第1回定例会後の「柳泉園組合事務連絡協議会」で、必要性の検討をしたと主張するが、本件大規模改修工事の必要性の予備調査を被告が行ったかどうかを調査するために、原告が情報開示請求を行ったところ、請求文書は不存在であった。

 

   そして、訴外組合では必要性の根拠を示す資料等を議会にさえ示しておらず(被告の主張によれば、上記平成252月の定例会で、管理者が意見表明をしただけのようである。)大規模改修工事を行おうとしている。

 

したがって、本件契約締結時において、大規模改修工事を契約の内容に含める必要性がなかったと言うべきである。

 

   なお、柳泉園クリーンポートは、2000年に稼働後、焼却炉は、一炉当たり毎年1億円前後の費用を掛けて、定期点検し、その他の点検補修の費用もかけている。本年2017年に近時建設費用のために起こした公債の支払いがようやく終わったばかりである。通常は、支払いが終わったばかりの時期に大規模改修が必要となることなど、そもそも当初の建設工事に欠陥があった場合しかおよそ考えられない。公債を支払ったことで、当分の間は経費が軽減されることになるはずであったが、その軽減されるはずであった経費を埋めるように本件契約が締結された。

 

   以上によれば、本件契約の委託費は、盛り込む必要のない大規模改修工事が盛り込まれているために過大な額になっている。そのため、前述したとおり、本件契約の締結及び委託費の支出は地方自治法214項、地方財政法41項に違反する、違法なものである。

 

 

 

 (3)焼却炉運転のベースとなる可燃ごみの焼却量が過大であること(地方自治法214項、地方財政法41項違反)

 

   訴外組合及び構成3市では、一般廃棄物処理基本計画において、不燃ごみに含まれている可燃物を焼却処理する旨定めている(乙7~乙10)。この点について訴外組合が説明してきたのは、不燃ごみ等を包むレジ袋などを、風力選別して焼却するというものであった。しかし実態は、不燃ごみの80%弱を焼却し、構成各市では「不燃ごみ」としているおもちゃや便器などの製品プラスティックを焼却しているため、年間では焼却量が5000トンも増量されている。

 

   そして、少なくとも西東京市においては、燃やさないごみとして収集されている不燃ごみを、本件組合は可燃物として処理している。すなわち、西東京市議会平成29年第2回定例会(第3日目)の森てるお議員(原告森輝雄)の一般質問に対し、市の担当者(みどり環境部長)は、「不燃ごみの定義ですけども、現在、市民の皆様に御案内しているところでは、燃やさないで処理するごみということで御案内させていただいております。」と答弁した(甲43頁から4頁)。また、同定例会において、森てるお議員の、「燃えないゴミというふうに説明して集めているごみを、実際に燃やしているではないか」という趣旨の質問に対しても、これを否定する答弁を明確にはしていない(甲44頁)。

 

   また、構成3市のうち清瀬市では、現在有料ごみ袋の再値上げをし、ごみ量を減らす努力をしている。また東久留米市でも、ごみの有料化を実施し、ごみ量を減らす努力を行っている。

 

   こうしたごみの減量化に向けての市民による身を切る努力は、それぞれの構成市で計画されているが、本件契約は、これまでのごみの焼却量をベースにごみ量が続くと計画が立てられている。

 

   訴外組合において、構成3市が不燃ごみと定義し、市民が分別に協力しているものを焼却しているが、かかる処理をやめ、前記の有料化対策によるごみ減量化の試みが実現した時には、訴外組合での焼却炉で焼却する焼却量が減少し、3炉稼働(通常2炉稼働と予備炉として1炉)から、1炉は全く使わないで稼働することの計画ができるはずである。

 

   そのような基本計画を立てることなく、現行の計画のまま進めることは、先に指摘したように、廃棄物処理法の違反であるばかりか、焼却量を過大に見積もり、過大な運転管理資金を契約に盛り込むことになる。

 

 

 

   以上によれば、本件契約の締結及びこれに伴う委託費の支出が地方自治法214項並びに地方財政法41項に反し、違法であることは明らかである。

 

  

 

第2 請求の趣旨の訂正について

 

   原告らにおいて直近で行った情報開示請求の結果が、本件契約に基づく委託費の支払がされていない時期のものであったため、現在再度情報開示請求中である。

 

   この結果を踏まえて請求の趣旨を訂正するので、当面は本案の審理を進めていただきたい。

 

以上

 

 

 

証拠方法

 

 

 

1 甲第4号証      西東京市議会平成29年第2回定例会議事録

 

2 甲第5号証      環境省ガイドライン

 

3 甲第6号証      情報公開資料の不存在による不開示決定書

 

 

 


 [4s1]用語は各書面で統一して記載しないと裁判所が読みにくいので、修正しました。

 [4s2]この部分が入ると文脈がつながらなくなるので削除しました。

 [4s3]この部分は趣旨がよくわかりませんが、第1段落の契約締結の方法について、本件では実質的に随意契約ということが問題になると思います。この点に触れる必要があるのではないですか。また、第2段落は法令上の定めはありますか(私の方でも調べてみましたが、見あたりません)。

 [4s4]「この点からも」とすると、その前の段落に他にも違法事由が記載されているように読めてしまい、文脈がつながらないので元に戻しました。

 [4s5]前段落を受けて、工事が不要であることの理由を述べることになるので、「そのうえ」だと文脈がつながらない(全段落とは別のことを述べるように読めるので)ため、修正しました。