原告準備書面11

平成29年(行ウ)第39号  住民訴訟事件
平成30年(行ウ)第178号  住民訴訟事件
原告 阿部洋二 外
被告 柳泉園組合管理者 並木克巳

準備書面(11)

平成31年4月8日

東京地方裁判所民事第38部 御中

原告ら訴訟代理人弁護士 小沢一仁

第1 はじめに
   訴訟の全過程を通じて明らかになった訴外組合の行為を取りまとめて、改めて原告らの主張を述べる。
   先ず、被告が訴外組合に行わせるべきであった行為を通常の行政行為に即して述べ、その上で、本件行政行為と対比し、その問題点を浮き彫りにする。
 1 大規模改修工事の必要性について
   一般廃棄物(産業廃棄物を除くすべての廃棄物)の処理は、訴外組合の構成市(清瀬市・西東京市・東久留米市。以下「構成市」という。)がそれぞれ計画を立て、その計画に基づき処理することになっている(廃棄物処理法6条)。その処理方針に基づき、集められた可燃ごみや不燃ごみは、訴外組合に運び込まれ、処理される。また、市町村は廃棄物の減量に努めなければならないとされている(同法4条)。
   つまり、将来における一般廃棄物の処理量は、今よりも減少していることが強く予想されるのである。そのため、本件のように15年もの長期にわたる委託契約を結ぶとすれば、構成市において、15年後も現在と同じようにごみが排出されるのか、それともごみ量は、大幅に減量化されるかなどの検討が十分に行われる必要があった。
   それにもかかわらず、訴外組合では係る検討が行われた様子が全く見られない。
   すなわち、本件においてまず最初に検討すべきことは、将来施設を建て替えるのか、それとも延命工事を施して長寿命化するのかという方針である。係る方針を決定するためには、施設の劣化具合の現状を正確に把握しなければならない。通常は施設の現在時点での施設・設備の状況を把握し、それぞれの耐用年数を推計することから始める。
   ここで、施設というものは設備の定期的な点検・整備、補修、更新を行うことによってその耐用年数は順次伸びていく。そのため、普通地方公共団体では丁寧な現状把握と維持補修に努めている。焼却施設について言えば、維持補修を繰り返しながら大規模な改修工事を経ることなく30年を超える期間の運転を続けている例がほとんどであり、これに満たない起債返還終了翌年から大規模改修工事に入るなどの事例は、皆無といってよい。
   訴外組合ではこれまでも運転の一部を民間(訴外エンジニアリング社)に委託してきた。同社は建設を行った訴外住友重機械工業株式会社の子会社である。長期にわたり支障なく運転できるように維持補修を行ってきたはずである。早期に不具合が発生するならば建設そのものに問題があったのではないかと親会社の能力が疑われることになるのだから当然である。
   訴外組合はこのような調査を全く行わず、焼却施設のどこに不具合があるかの点検も行っていない。しかも、後に詳述するが、予定価格を大幅に減額変更した経過を見ても、大規模改修が差し迫った課題でなかったことは明白である。普通地方公共団体においては、大規模改修が差し迫った課題でない場合には、引き続き状態把握に努め、より良い状態での施設の運用に努めるべきである。
   普通地方公共団体においては、折々の維持補修については必要な範囲を見定め、その範囲の中で実施し、場合によっては将来の更新に備えて基金を積み立てたりすることもある。
   仮に、日常の運転中に問題が発生し、いよいよ通常の維持補修では対応できない状態が生したり、生じることが予測されたりする事態になった時には、そこではじめて建て替えか大規模改修による延命化かの判断をすることが必要になる。訴外組合は焼却炉を3炉保有しているところ、たとえひとつの焼却炉に緊急事態が発生したとしても十分に対応することが出来る。また、3炉の劣化の状況も一様ではないから、3炉を一斉に大規模改修しなければならない必然性は全くない。
   いよいよ通常の維持補修では対応できない状態が出現した際にも、当然ながら不具合個所を特定し、その不具合が延命化によって修復可能かどうかの調査を行う。このような作業の後に建替えるにしても延命化するにしても、地方公共団体側でどの箇所をどのようにするかの工事内容を設計図書に定めて、請負契約として入札行為に掛けるのである。
   設計図書を作成することもなく、請負契約を締結することは、すでに原告らが繰り返し指摘してきたように、建設業法上も、一般的な工事発注の流れに照らしても、全くあり得ない。
   被告は第5準備書面において、「本件契約に大規模改修工事を含むことが入札段階で明らかであった」としており、その根拠として入札説明書の中に「要求水準書」が含まれていたことを指摘するが、要求水準書は一般論を述べたものに過ぎない。要求水準書には工事の具体的必要性、施工時期、施行期間、工事経費等は記されておらず、すべて業者が判断することになっている。すなわち「丸投げ」である。このような業者へ丸投げの内容で手続きが進められてきた理由は、訴外組合が本件契約に請負の要素が含まれることを全く意識しておらず、委託契約として考えていたからに他ならない。
 2 「一般競争入札」が自治体での入札の原則であること
   地方自治体における入札は一般競争入札と定められており、どの自治体も広く公募し、より優秀な事業者に安価で請け負わせるように努力する。最近では性能発注と称し価格以外を選考に加えるために、訴外組合においてはいまだ条例化されてはいないが、地方自治法において「総合評価一般競争入札」が行えることになっている。一般競争入札の例外を定めるものだから、なおのこと、多くの優秀な技術を有する事業者の参加を求めることが重要になってくる。
   入札にあたっては、事業実施が確実に見込まれる事業者であることを確認の上で、入札に参加させることが求められる。そのためにさまざまな手立てがとられる。事業実績であるとか、経営規模の確認だとかの書類上の確認も怠りなく行う。
 3 財源について
 (1)支払い原資の明示が必要
    本件のような長期にわたる多額の契約においては、その支払いを担保するために、事前に支払いの原資を確保しておく必要がある。当然のことながら、これは入札行為を行う前に確保しておかなければならない。
    そのために、市債の設定、債務負担行為の設定などを行なうことになる。銀行等からの借り入れのほかに、地方公共団体にあっては、その時点では歳入とされていないものの、毎年の税収を担保に将来の支払いを約束する債務負担行為の設定が、支払いの担保とされる。事業者はその約束をもとに入札に参加してくるのである。
    その歳入に比べて事業費が過大になるならば、支払い能力に欠陥があることになり、債務負担行為そのものが設定できないことになる。
 (2)債務負担行為による確定
    最近の一審判決(東京地方裁判所平成27年(行ウ)第351号)において、土地の区画整理事業で、計画変更された事業費が過大となり、返済年度の一部に、予測される当該年度の歳入総額の半分を返済計画に組み込んでいる事例があり、現実的な返済計画があるとは言えないとして、計画変更を違法とした事例が出ている。確実に歳入が見込めて、その範囲の中での妥当な返済計画というものはおのずと定まってくるものである。
    債務負担行為の原資がいまだ確定できるものでない場合は、支払い能力が備わっているものとみなすことはできない。確実に見込めるものしか歳入に計上することはできず、歳入の限度でしか歳出に計上できないというのは、余りにも当然な地方公共団体の予算編成行為である。
    このように事業実施にあたっては、財源が確保されていなければならず、そのために入札行為を始める前に、どのように歳入するかを確定しておかなければならない。
 (3)構成市の債務負担行為を欠いた会計処理
    本件事業については、訴外組合は将来負担の大部分を、債務負担行為を設定して先々の歳入によって支払うものとした。
    しかし、地方公共団体とはいえ訴外組合は独自の徴税権を持っていない。訴外組合の歳入の主要なものは構成市からの負担金(分担金)収入である。
    構成市からの負担金は構成市が構成市である場合に限り、訴外組合の当該年度の歳入になるだけのものであって、構成市が構成市でなくなれば、支払う必要もなくなるものである。最近では一部事務組合からの離脱事例が相次いでいるところ、係る現状に鑑みれば、構成市において負担金を支払う義務があるから、訴外組合における債務負担行為の設定のみで将来の財源の確保をすることができるとする被告の主張は暴論というほかない。
    以上によれば、本件では、構成市においても債務負担行為の設定が必要であったことは言うまでもない。しかしそれが行われなかったのだから、訴外組合の予算は歳入欠陥の予算だと断じるほかない。
    地方自治法第214条では「歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と定められている。したがって、訴外組合は、構成市における債務負担行為の設定を経たうえで本件事業を進めなければならなかった。
 4 入札行為について
 (1)入札参加資格が極めて厳しいものであったこと
    さて、以上を述べた上で本件における入札行為について述べることにする。
     原告らは本件訴訟を通じ、入札資格についてさまざまな問題があることを指摘してきた。
     前記2で述べたとおり、地方公共団体の入札は特別な例を除いて、基本的に一般競争入札として行われる必要がある。その理由は、広く呼びかけることによって、より優秀な技術水準のものをより安価に調達、また、施工を確保するためである。
     ところが、本件の入札に参加した事業者は競争入札に最低限必要な2社であった。15年間総額140億円にもなる事業に、わずか2社しか応募しなかったことがそもそも異常と言わざるを得ない。参加条件が不必要に厳しかったと言いうしかない。
        まず、事業者としては、参加にあたって訴外組合に対し入札参加資格申請書を提出して、資格証明書の交付を受けておくことが必要であった。
        被告はこの点について、入札公告までに申請すれば交付は受けることが出来た旨の主張をしている。しかし、入札は入札公告をもって始まるのであって、広告前の段階で申請し承認を得ておかなければ参加資格を付与しないとするのは、入札制限にあたるものである。
        なお、この資格登録については、当初、構成市において参加資格の登録があること、としていたが、その後、訴外組合において登録のあるものと範囲が縮小されている。これも参加条件を狭めるものであった。
        入札参加条件について事業者から質問が出て、それに訴外組合が回答している。その中に、「ある書類には入札参加資格証明書が必要と示され、別の書類には記載がない。改めて入札参加条件を明示してもらいたい。」という問いに対して、入札締め切り間際に、「柳泉園組合における入札参加資格証明書が必要である。」旨の回答がなされている。その時にはすでに「入札参加資格申請書」の申請時期は過ぎている。
        参加しなかった事業者は経営上の判断で参加しなかったのだ、と被告は断じているが、参入障壁が参加を許さなかったと推認することが出来る。入札参加条件が、あいまいであり、入札締め切り間際に入札参加資格証明書が必要など、公明・正大な入札が行われたとは言い難い。
        こうして訴外組合に従前から関りが深かった2社のみの入札となったのである。あとは実績の違いがものをいう、総合評価での選別になる。この時点で、焼却炉建設メーカー関連事業者が、優位になる結果は見えていたというしかない。原告らが、一般競争入札の姿を借りた事実上の随意契約だと指摘している通りである。地方自治法に違反することは言うまでもない。
        さらに言えば、参加資格の登録は地方自治体が業者の資格を確認することが必要な場合、例えば指名競争入札における業者の指名などに必要な場合に使われるものである。
        一般競争入札においては、入札審査資料の中に経営規模や事業実績等、思考施工能力を確認するのに必要な書類の提出を求めておけばいいだけで、あらかじめの登録などは必要がない。
 (2)本件契約は競合が生じにくい内容のものであったこと
    今回の事業には焼却炉の運転を含む運営委託とともに、施設機能を一新するのに匹敵するような大規模改修工事が予定されていた。
 これら工事契約を含む双方を一括して委託契約として取り扱うことが一般競争入札を定めた地方自治法及び建設業法に違反することについてはすでに述べたとおりである。
    ここでは、当初ひとつの委託契約の中に、本件設備の運営委託と焼却炉メーカー、焼却炉ゼネコンでなければできないような施設更新に匹敵する大規模改修が含まれていたことの問題点を指摘する。すなわち、本件設備の運営に精通しており、かつ、大規模改修工事を受注できる業者が、いったいどの程度存在するのかという問題である。いうまでもなく、両者において高い評価を得られる業者には限りがあるため、本件契約はそもそもそれ自体が高い参入障壁を含むものであったといわざるを得ない。
        さらに、訴外組合において過去10年以内の事業実績を求めた点も参入障壁になった。広く門戸を広げて、技術力の高い業者をより安価で選別するために行う一般競争入札において、なぜ、これまで述べたような参入障壁を積み上げ、入札参加事業者を極限にまで絞り込んだのか、そこにこそ訴外組合の意図があったのではないかと原告らは考えている。
    すなわち、訴外組合の意図は、競合が生じないような内容の契約を締結することによって、本件契約を訴外エンジニアリング社との間で締結しようとする意図を持っていたと原告らは考えている。
 (3)入札参加の前日に訴外エンジニアリング社の入札参加資格に疑義が生じたのに手続きを強行したこと
    入札に関しては、もうひとつ見過ごしにできない大きな問題がある。「そもそも、落札者となった訴外エンジニアリング社には入札参加資格があったのか。」ということである。
        同社は2017年の年度末(同年3月31日)をもって吸収合併によって消滅することが決まっていた企業である。入札に参加する前日に、訴外組合にその旨を通知している。
    この通知により同社が、「入札参加に問題があると指摘されないだろうか」との不安を抱いていたことは容易に推察できる(このような不安を持たなければ、わざわざ通知をしない。)。しかし、訴外組合はこの通知を全く問題視せずに放置した。入札審査委員会への報告もせず、法的検討を加えた形跡も見当たらない。不作為を決め込んだのである。あるいは訴外エンジニアリング社は翌日に入札に参加しているのだから、訴外組合から大丈夫だとの回答を得ていたのかもしれない。
    しかし、少なくとも、原告らが知る限り、地方自治体の入札において消滅企業が入札に参加し、落札企業となるといった前例はない。1億5千万円を超える「工事又は製造の請負」には議会の議決が必要となる。それまで、委託契約だから議会の議決は必要がないと言い続けて「工事又は製造の請負」としての手続きを一切行ってこなかった訴外組合が、訴外組合議会に議決を求めた。
    本件契約が「工事又は製造の請負」に該当すると訴外組合がこの瞬間に認めたのである。建設業法では「工事にかかわる契約は、いかなる名称かにかかわりなく請負契約とみなす」旨を定めている。したがって、入札を無効とし、やり直すことが明らかに必要であったのに、訴外組合はこれを怠った。
        さらに、この議決を得ることが出来るのは、落札事業者が消滅した後あることも明らかであった。訴外エンジニアリング社が消滅した時点で落札者不在、落札無効となり、他に1社しか入札参加事業者が存在しなかったことから、一般競争入札は成立しない。他方で、次点事業者を繰り上げて落札者とするわけにいかない。したがって、本件では本来、入札そのものが「不調」に終わっていたのである。当然、入札はやり直しにするか中止、取りやめにするしか方法はないのである。しかしながら、以下で述べるとおり、訴外組合はさらに違法行為を重ねた。
 (4)存在しない契約(仮契約)の引継ぎ
     前記(3)で述べたとおり、入札は施工ができることを前提にして参加するものであり、施工不可能な事業者は参加することはできない。首尾よく落札できたとしても、高額の「工事又は製造の請負」においては、落札したのち議会の議決を得るまでの間は仮の契約者に止まる。
     通常の自治体での入札では、落札企業が決まり契約を結ぶ際に、地方自治法96条第1項5号の規定により、一定の金額を上回る請負契約については議会の議決が必要になる。
        議会の議決が得られるまでは、自治体と民間事業者との間の契約では、仮の契約とし、契約書に(仮)と記載したうえで、「議会の議決を得た時に本契約とする」「議会の議決が得られなかったとき、本契約は無効とする。その際、発注者はいかなる責任も負わないものとする」という旨を追記し仮契約を締結する。この契約書(仮契約書)が本件契約にはなかった。契約書があれば、相手方は訴外エンジニアリング社になっていたはずである。しかし、訴外エンジニアリング社との間の契約書はどこにも存在しない。その理由は余りにも単純である。訴外エンジニアリング社は臨時議会が開かれる前年度の末日(2017年3月31日)をもって消滅していたからである。
    仮契約後の事務の流れを自治体における一般的な事務の流れで述べておく。
        すなわち、議会の承認を得ることが必要な議案として議会に提案し、無事に議会の議決を得ることが出来たならば、契約書に付した(仮)の文字を二本線等で消して本契約が成立する。これは、仮契約と本契約が同一のものであることを示す必要から行われる。その後に事業の開始となるのである。地方公共団体の側はその後工事が適正に行われているかの監理監督を行う。事業は最終の完了検査を経たのち成果物の引き渡しを受けて完了する。
      ところが本件契約では驚くべき事実があった。仮契約の相手方とされた事業者と本契約の相手方が相違していたのである。こんなことはどう転んでもあり得ない。
        訴外組合は仮契約の相手方を訴外エンジニアリング社としているのだから、議会の議決(2017年4月20日)は当然相手方を訴外エンジニアリング社として行わなければならない。しかしながら訴外エンジニアリング社はすでに2017年3月31日をもって消滅している。仮契約、本契約に関わりなく契約主体とはなりえない。
        従って仮契約書も本契約書も作りえなかったのである。落札当事者である訴外エンジニアリング社との間には「契約書」なるものは存在しない。それにもかかわらず、本件契約は成立したものと訴外組合は強弁する。ありえないことであるが、ではその相手方はだれか。ここで登場するのが訴外エンバイロメント社である。
        訴外エンバイロメント社は会社法750条1項で訴外エンジニアリング社の権利義務を継承している、と被告は主張する。しかし、訴外エンジニアリング社との契約そのものが存在していないのである。自治体が消滅した事業者と契約を結ぶことはどう考えてもできない。これができるとすれば日本の商習慣は成り立たない。
    以上のとおり、消滅する訴外エンジニアリング社との間で締結された仮契約は無効である(なお、無効原因としてその他にも理由があることは、これまでに原告らが主張してきたとおりである。)。したがって、当然のことながら、存在しない仮契約者としての地位を訴外エンバイロメント社が引き継ぐことはできない。
    こうして、本件入札は落札者不存在という形で終結していなければならなかったのである。
 (5)住友重機械工業関連企業への入札・契約有りきであったこと
    さて一方で、被告は訴外組合の代表者として、柳泉園クリーンポート建設費に係る組合債(起債)の償還が終了した翌年、間髪を入れず、将来の施設更新の検討(=大規模改修工事)を始めるように指示していたことが、伺える(長期包括検討委員会の設置)。
    起債返還後、日時が経てば、起債の償還(組合債の返却)が終わるといったん通常の会計予算に戻り、運営経費はその分大きく減額されることになるが、長期包括契約を行えば、年間約9~10億円にもなる出費が、新らたに引き続き計上されることになる。しかし、被告は、起債返還時の膨れ上がった歳出と、新設にも匹敵する大規模改修工事の費用を含む長期包括事業とを比較することで、被告は、すぐにも大規模改修が必要であると柳泉園組合議会議員に思い込ませた。そのうえで、大規模改修工事を含む長期包括管理運営事業をもって民間委託にすれば運営経費が減額されるという詐欺まがいの説明を訴外組合議会で行っている。
    民間委託によって経費の削減が図られるのは主に人件費と作業の効率化によるものでる。作業の効率化については、すでに訴外エンジニアリング社が指示するか、アドバイスをすべき立場にあり、改善の余地はない。人件費の削減については、柳泉園組合職員を退職させる必要があり、現実的ではない。
    被告はクリーンポートの運転管理業務を建設事業者である住友重機械工業(株)関連企業に委託し続けることを目的として、15年間の長期包括管理運営事業と称して、運転業務に止まらず、施設更新に係る大規模改修工事を含む管理運営業務の一切を、事業委託という名のもとにまとめることとした。

     本来別契約とすべき大規模改修工事を「委託契約」の中に含めるために、あたかも大規模改修工事が通常の施設管理の範疇に含まれるかのように装い、その必要性の根拠を「建設後15年程度を目途として大規模改修工事を施し、30年程度運用するのが一般的である」としたもので、全くの一般論の域を出ず、いつ、どのような改修が必要かはついに具体的に検討するには至らなかった。
    なお、環境省では「廃棄物処理施設長寿命化総合計画作成の手引き(ごみ焼却編)」を作成し、公開している。本来、大規模補修工事の計画はこれにより検証、計画すべきものを、訴外組合はこれを行なってない。
     そこで、被告と訴外組合は、大規模改修工事を前面に掲げることを止め、15年間の長期包括管理運営事業と称して、運転業務に止まらず、施設更新に係る大規模改修工事を含む管理運営業務の一切を、事業委託という名のもとにまとめる契約内容だと説明した。工事の具体的必要性、施工箇所、施工時期、施工期間、工事経費等は実質丸投げするという決定である。
     通常、施設の維持管理については自治体と運営管理を担う事業者との間で取り決めを行うが、施設本体の維持・補修については、軽微なものを除いて自治体がその必要性を見定めたうえで自らの責任で発注することが一般的である。
     しかし訴外組合においては、従来、クリーンポートの建設事業者である住友重機械工業株式会社の子会社である訴外エンジニアリング社が維持補修の必要性を提示し、その工事請負契約の多くを同社が請け負ってきた。運転管理事業者が必要性を判断し、工事内容を定めていたことになる。主客転倒している。
      本来なら、自治体、本件の場合は訴外組合が、工事契約にあたって必要性の有無を見定め、改修箇所を指示し、設計図書を提示して請負契約としての一般競争入札を行い、その上で、住友重機械工業株式会社のような焼却炉建設メーカーに請け負わせるということが筋道であった。しかしながら、このような事業を運転管理を主たる業務とする訴外エンジニアリング社に任せていたことが適正と言えるのか極めて疑問である。
     柳泉園クリーンポートの建設事業者である住友重機械工業株式会社が維持管理を請け負った場合には、焼却炉の耐用年数内における適正運転は建設の不具合を補償する「かし担保」のようなものと認識させてしまう恐れがあり、利益につながらない修理をする羽目になることが考えられた。
  (6)必要とされる経費が過大に見積もられていたこと
    その背景のもとで、本件柳泉園クリーンポート長期包括管理運営事業における将来負担の推計の作成を、訴外エンジニアリング社をコンサルタントとして作成させた。のちに総合評価一般競争入札として実施された入札に同社が参加し落札するという流れがこの時に作られたものと言わざるを得ない。
     「柳泉園クリーンポート長期包括管理運営事業」と称された本件事業は、クリーンポートの運転にとどまらず、維持補修工事、大規模改修工事による施設更新等を包括するものとされている。
    コンサルタントとしての訴外エンジニアリング社が提示した運営費の比較によれば、それまでのやり方を踏襲した場合に比べ、長期包括委託にした場合に約44億円の経費削減になるとし、訴外組合はそのままを訴外組合議会に説明して議会のおおむねの了解を得たとしている。
    しかし、比較対象するものが何もない中で、公平とは言い切れない、運転管理受託者である訴外エンジニアリング社をコンサルタントとしたシミュレーションを採用した。その結果、のちに入札に際して訴外エンジニアリング社が示した提案は、同社自身の手によって作成され、訴外組合議会に提示されていたシミュレーションとは全く異なった提案であった。入札に際し訴外エンジニアリング社が示した提案に対して、訴外組合も訴外組合議会も、ともに適正なチェックをすることができなかった。訴外エンジニアリング社のマッチポンプともいうべき手法を許してしまったのである。
    約44億円の経費削減になるという触れ込みは、必要のないものを事業計画の中に紛れ込ませて作られたものであった。訴外組合が議会に示したシミュレーションによると、柳泉園が所有する3炉の焼却炉を順次大規模改修することとなっている。しかし一方でごみの総量が59,200tを下回ると2炉で焼却可能であるとしており、シミュレーションでは長期包括管理運営事業契約半ばの平成38年度からは59,200tを下回ることが示されている。つまりそれ以降は2炉で十分であるにもかかわらず、3炉の大規模改修が行われることになっている。
ごみ量については収集の有料化により大幅に減量となることがわかっているが、シミュレーションは構成団体のひとつである訴外東久留米市が昨年導入した有料化の影響を考慮していない。訴外東久留米市の有料化によって相当量の減少が見込めるために、59,200tを下回る年次が前倒しになることが明らかである。3炉の更新は必要がない。
    ちなみに、59,200tの根拠は、訴外組合によると、1炉の一日当たりの最大焼却量は105t、計算上一日100tとし、年間の稼働日数を296日として計算し29,600tを年間焼却量としている。365日中の69日を休炉期間としてその間にメンテナンスを行うとしているが、メンテナンスに要する期間は一般に30日程度を想定するのが通例で、実に39日も過大に見積っている。それだけのゆとりを見てなお、長期包括管理運営事業期間の半ばで2炉の運転で処理が可能となるのである。
 (7)大規模改修工事の見積額に根拠がないこと
    本件では、固定費A(主に委託業務に関するもの)と固定費B(大規模改修工事に関するもの)の額が、当初の見積もりと大きく変遷した経緯がある。本件契約に際しては、従前の見積もりが変更され、固定費Bが減額され、固定費Aが増額され、全体としては金額が減少していた。
    しかし、本来委託契約と大規模改修工事に係る請負契約は分離発注されるべきであり、大規模改修工事については、具体的な工事の内容とともに見積もりが提示され、入札にかけられる必要がある。この場合、工事の内容に変更はないのだから、事前の見積もりと契約金額に大きな乖離が生じることは通常考えにくい。
    したがって、本件のように、大規模改修に係る請負代金部分が大幅に変動するということ自体、請負契約としての入札手続きの体をなしていないことが明らかである。
 (8)小括
    本件契約における問題を総括すると、運営委託と工事請負という全く異なった契約をひとつの委託契約と偽り、また、議会の議決は必要ないと偽り、不必要な経費を潜り込ませて、違法な契約に及んだことである。その結果、市民の貴重な税金を無駄に費消することになった。
    被告は、本来委託契約とは別物であり、議会の議決に付すべき請負契約を、委託契約のまま「議決した」と偽り、請負契約に必要な建設業法の諸規定を踏みにじった。
    訴外組合が議会の議決を求めたということは、とりもなおさず本件契約が「1億5千万円を超える工事又は製造の請負」であることを認識したということになる。
    したがって当然にも契約は請負契約として説明され、そのようなものとなっていなければならない。しかるに、訴外組合は委託契約としたまま議決のみを求めて、地方自治法96条第1項5号に明白に違反した。
    また被告は、施工実施時期には消滅していて存在しない事業者(訴外エンジニアリング社)を入札に参加させ、落札者と決めたのみならず、仮契約を結ぶこともなく、請負契約の実態が伴わない委託契約としたまま議会の議決に付した。さらに、議決の時期に至ってはすでに訴外エンジニアリング社は消滅したあとであり、訴外柳泉園組合議会の議決は錯誤によるものと言わざるを得ない。被告は、存在しない事業者と契約を結ぶと称し、議会の議決を得たならば自動的に契約を訴外エンバイロメント社が引き継ぐことが出来るなどと、言葉巧みに訴外組合議会をたぶらかし、議会の議決を誘導した。
    残念ながら、法曹関係者でもない議員が、法律の細部まで熟知していることなどなく、自治体執行部の誤った説明、あるいはうその説明にごまかされて、動かされてしまうことはしばしばみられることである。被告はこのような議員の無知を、違法な契約を結ぶことに利用した。
    被告は本件契約が会社法750条の11項により成立していると主張するが、訴外エンジニアリング社との契約は成立しておらず、したがって訴外エンバイロメント社が契約を継承することなどありえず、被告の主張は失当であり、本件契約は無効である。

第2 被告第5準備書面第1「本件契約に大規模改修工事を含むことが入札段階で明らかであったこと」
 1 第1項「入札公告と入札説明書等」
   第1段落は不知。
   第2段落は、乙3に係る記載があることは認める。
   第3段落は、乙30に係る記載があることは認め、その余は不知。
 2 第2項「要求水準書」
   第1段落は、乙31に係る記載があることは認める。
   第2段落は、乙31に係る記載があることは認める。
 3 第3項「請負契約を前提とした入札手続も行われていたこと」
   第1段落は認める。
   第2段落は争う。そもそも、工事の具体的内容すら明確でないのに、要求水準を定めることなどできないし、水準を満たしているか判断することもできない。配点が高いことは、これらの問題点を解決するものではない。
   第3段落は争う。

第3 被告第5準備書面第2「平成30年5月分から同年12月分までの支出行為について」
   不知だが、積極的に争わない。

第4 被告第5準備書面に対する反論
   被告は、入札公告の際に配布・公表した入札説明書(乙30)が、要求水準書(乙31)を含んでおり、これが契約関係当事者を拘束するものとなることころ、要求水準書には、本事業を実施する際のサービス水準が具体的に示されていること、「事業者は、定期点検整備とは別に今後、設備性能の低下が予想される設備・機器等の更新あるいは一部を更新する大規模補修を事業開始より概ね10年で実施すること」「大規模補修の対象の設備機器を表5.3.3に示す」などと記載されていることから、本件では請負契約を前提とした入札手続きが行われていたと主張する。
   しかし、請負契約には、実施事業者側が、設計図書を示すことが建設法上の要件である。ではここに示された要求水準書が、その設計図書にあたるのか検討してみたい。
そもそも委託契約を前提にして、大規模改修工事を受託業者に丸投げすることを予定していたのであるから当然のことではあるが、確かに被告が指摘する各記載は存在するものの、具体性は何もない。補修箇所が明記されているとしても、それがどのように劣化し、どのような工事を行わなければならないか明確にされていなければ、どの業者が契約相手として適切か、入札予定額をいくらとすることが適切かなどを判断することなど全くできない。この要求水準書には、そのような記載が無いのである。
   また、この要求基準書は、運転管理等の管理委託契約を前提としていたことから、管理中に認めた不具合についてどのように対処するかをまとめたものである。「」「」との記載があり、ここに書かれている大規模改修工事は、その内容ではなく、もし必要性があれば、訴外組合に了解を取って進めるという手続き論についての記載でしかない。つまり大規模改修工事を進めることを前提とした内容記載ではなく、請負工事の契約において必要とされる設計図書の内容ではない。
さらに要求水準書は、入札の公告にあたって示されたものではなく、落札予定所業者が分った契約の段階で示されたものであり、その意味でも請負い契約の公告の段階で示す必要のある設計図書に置き換えることはできない。
事業開始から概ね10年などと幅のある期間を定めること自体、入札時点で大規模改修工事の具体性が何もないことを訴外組合自らが認めるものに他ならないし、少なくとも本件事業開始時点において大規模改修の必要性が存在しないことを裏付けるものである(概ね10年で大規模補修を実施すればよいということは、少なくとも向こう10年間は、大規模改修工事をしなくても設備の使用には支障がないことが見込まれていたということである。)。
   以上によれば、被告の主張はむしろ、原告らの主張の正当性を裏付けるものである。
以上